作家詳細

作家情報

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作家名 李禹煥
作家名(欧) Ufan LEE
生年/生地 1936/韓国
解説  李禹煥(1936韓国慶尚南道生まれ-)は、戦後日本の重要な美術動向「もの派」を構成する作家のひとりであり、特にその理論形成の中心的役割を担った作家である。現在、鎌倉に在住する。また、パリにもアトリエを持つ。
 李はソウル大学校美術大学に入学した1956年の夏に来日する。1958年に日本大学文学部哲学科に編入してハイデガーによる現象学等を学ぶ。1960年代には点や線による筆触を活かした抽象画を描き、あるいはコンセプチュアルな傾向の作品を発表した。1968年10月、神戸須磨離宮公園現代彫刻展にて関根伸夫が大地に巨大な円筒形の凸凹を表し出した作品《位相-大地》と出会うことによって、李自身の中に大きな変革が生じる。当時の美術界は、視覚と実態との差異をテーマとした作品が優位にあった。李は、関根のその作品をトリッキーな表現でありながら同時に現実であることを顕現していると認識する。李は、その考えを端緒として、作者の概念を形象化する近代以降の美術作品の否定にまで波及し、「もの」そのものが「世界を顕わにする構造性」を発現する(作品となる)ことを表明した論考「出会いを求めて」(『美術手帖』1970年2月)を著す。
 《点より》(1975年)は、その李が、抽象絵画という近代以降の美術の枠の中に早くも回帰したと捉えられかねない作品だが、直接的には、ニューヨーク近代美術館に於けるバーネット・ニューマン展(1971年)の展示空間を体験することによって、絵画という表現手法でも物質的要素によって空間表現ができると判断したことが、同作品の誕生に帰結したものである。さらには、絵画を、イメージを描くことではなく、プロセスとそのシステムを見せる場として扱う点でも従来の在り方とは異なる表現手段とした。また、人類が作り出した素材を代表する鉄と自然物である石が組み合わされた作品《関係項−ふたつの石とふたつの鉄》(1978/90年)は、鉄鉱石という石から導き出された鉄という関係性や時間を隠喩するばかりでなく、その作品が置かれた空間との関係を問う作品でもある。李は、このような彫刻作品ばかりでなく《点より》のような絵画作品を展示する際においても、展示空間との関係性を厳密に問う姿勢を堅持していることは、先に指摘したニューヨークでの経験にもとづくものであり、李芸術を考えるための重要な観点のひとつとなっている。(中井康之、2023年6月)